「JJAジュエリーデザインアワード2021」最高賞となる内閣総理大臣賞の受賞式を目前に控えた上久保泰志さん。30歳という職人の中では若手に属するなか、突出した才能を世に知らしめました。
同コンテストで台東区長賞が決まった髙橋さんとは同じ大学出身、現在も工房内で互いに切磋琢磨する良きライバル関係を築いています。
出会った当時、大学に常在する彼を職員と勘違いしていた髙橋さんは、同じ学生だと知ってとても驚いたのだとか。作業に没頭するあまり帰宅のタイミングを逃すことも多かったそうで、真面目で研究熱心な人柄は学生の頃から変わらないようです。
一見、寡黙な青年。深淵のような色をたたえた彼の瞳は時折きらめきを帯び、自身の作品や制作について熱く語ってくれました。
内閣総理大臣賞、誠におめでとうございます。タイトル「Twinkle 星影の記憶」とありますように、まるで夜空を見上げているような作品ですね。
上久保
ありがとうございます。実を言うと、今回の作品は構想を練るところから始まっているので、コンセプトは後付けなんです。
まずはどういうものを作ろうかな、っていう基本の形作りからスタートし、途中からこれで何を表現できるかな、と。
ネックレス(プラチナ900、18Kホワイトゴールド、18Kイエローゴールド、ダイヤモンド)
出品アイテムを1点に絞り、随所に技巧を散りばめた。メインとなる細長のパーツはよく見ると独特の縞模様となっており、ホワイトゴールドとプラチナを交互に重ね溶着したもの。プラチナとホワイトゴールド、色の近い金属同士を組み合わせることで、当初の狙いどおり全体を淡い色調でまとめることに成功した。
通常、異素材同士を組み合わせて熱を加えるだけでは各自が溶けて混ざり合い、合金となるため互いの境目がなくなってしまう。
彼は学生時代からの研究をもとに試行錯誤を重ねながら境目のみを合金化、接合に成功した。数値上では得られない、職人としての経験と勘を頼りにようやく 辿り着いた技術の結晶だ。
技能的なものから入り、後にテーマを定めたということですね。コンテスト出品にあたっての狙いがあったのでしょうか?
上久保
最初のきっかけは2年前に開催された前大会で、当時の受賞作品を目の当たりにしたこと。「いつか自分の作品もここに置きたい。」と思いました。
一緒にいた社長も同じ思いを抱いたようで、ふたりで語り合ったことを憶えています。コロナ禍で昨年の開催は中止となりましたし、僕も日々の仕事で忙しくしていたので間が空いてしまったのですが、今年の3月あたりにあらためて出品の件を相談した時、社長が快諾してくれたのは嬉しかったです。情熱を同じくしていることは理解していましたが、現実的に可能かどうかは別の話だと思ったので。
制作中は仕事ができなくなる期間が出てくるだろうし、お客様やスタッフに迷惑をかけてしまうかもしれない。そういった事情も全て理解した上で、社長が背中を押してくれたのは心強かった。やりたいものをやれる、だからこそ自分が持つ技術のすべてを注ぎ込もうと。色んな技術や工夫を詰め込むことを考えているうち、自ずと形が決まったという感じです。
なるほど。そこからようやくコンセプトに紐づくのですね。星影の記憶というのは?
上久保
子供の頃に見た流星群ですね。作品の縦のラインで、流れ星の余韻を表現できたらと。
僕の作品全体に共通することなんですが、見た目がきれいなだけでは終わらせたくないんです。個人的な好みもあって、見た目が派手な作品は基本的に作らない。
今回もきれいな星空を表すだけではなく、作品全体になにか面白い要素を加えられたらいいなと思いました。形とか、光の要素を細部にさり気なく取り入れるところにやりがいを感じます。
デザインにあたって髙橋さん同様、あまり機械に頼らない方だと伺いましたが。
上久保
そうですね。僕の場合はiPadも使いませんでした。(笑)試しに使ったりもしたけど紙で書いたほうが早いし、特に不足も感じません。
仕事でもCADを使わないのかと訊かれますが、今のところ必要としていません。ジュエリーは量産するものではなく、ひとつひとつ技を入れていく工芸品だと思っている。
立体的なイメージは、発泡スチロールとかダンボールとか身の回りにあるものを使って掴みました。本来は丁寧に緻密にデザイン画を作って模型を作って、という工程が正しいんでしょうけど、僕の場合、正攻法でデザインを考える必要がないんです。
僕の頭の中には常に完成品があるから大丈夫。あとは自分の手を動かすだけ。
なるほど。それはデザイナーとクラフトマンを兼ねている上久保さんの強みと言えますね。
確かに作品で特に印象的な縦長パーツの縞模様などは、CADで手軽に作れてしまうものではなく、現在必要性を感じていらっしゃらないのも頷けます。
縞模様のメインパーツは夜空に吸い込まれるように消えていく、力強くも儚い流星のイメージを効果的に表していると思うのですが、こちらはどのような加工を施しているのでしょうか。
上久保
木目金(もくめがね)といいます。プラチナとホワイトゴールドを交互に重ねていく手法で、独特の縞模様ができます。
木目金というと、通常は違う色の金属同士を用いてコントラストを重視した縞模様を作りますが、僕はあえて同系色のプラチナとホワイトゴールドを合わせて全体を淡い色にすることで細かいニュアンスを出したかった。
暖色光や蛍光で木目の表情が変わります。他にも角や側面にはさり気なく鏡面加工を施して、光を受けてキラキラと輝く仕掛けにしました。
一見、ホワイトゴールドとは思えない独特な色合いですね。
上久保
金の色の配合は、学生の頃からずっと研究を続けているテーマでもあります。何度失敗を繰り返し、試作を重ねたかわからないくらいです。
ホワイトゴールドは通常、白く見せることが求められますが、実際は様々な色が出せるという素材本来の可能性を示したかった。
全体的にロマンを感じる独創性に溢れた作品に仕上がりましたが、ご自身の目線から作品の見どころを教えていただけますか?