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全体的にロマンを感じる独創性に溢れた作品に仕上がりましたが、ご自身の目線から作品の見どころを教えていただけますか?
上久保
基本的には2本のプラチナの曲線を土台として、縦長のメインパーツを載せていく構造です。
センターの部分はパーツを重ねることでボリュームを出し、立体的で華やかな印象に。メインパーツは全て、反りをもたせて光の帯のような軽やかさを出すとともに、中央から両サイドに向かうにつれ、徐々に反りを強くしています。 これにより首のラインに馴染むため、着用時の圧迫感と見た目の窮屈感も軽減されたと思います。
また流星の流れや煌きを木目金、ダイヤモンドパーツ、プラチナ、ゴールドの輪で表現しました。ゴールドの輪につけたダイヤモンドは本来、もっと揺れる作りにするつもりでしたが、動きが控えめになってしまった。
でもよくよく見ると小さな星の瞬きのようになったので、思わぬ誤算でしたが満足しています。
制作中につまずいたこと、大変だったことはありますか?
上久保
たくさんあります。(笑)まずデザインの元になる構造を決めるのにかなり苦戦しました。
周囲とは違うデザインや仕様の追求、見た目の美しさ、奇抜なものを作ってみたいという欲求、でもあからさまに奇を
ようやくデザインが固まりかけた5月頃、木目金の色でつまづきました。 理想の色を追求するうち、2週間があっという間に過ぎてしまった。それでも色については絶対に妥協したくなかったので、意地でもやめなかった。納得の色が出るまで粘りました。
そこからさらにプラチナとホワイトゴールドの溶着という問題が立ちはだかった。
上久保
そうなんです。しっかりと溶着させないといけないのですが、加熱し過ぎるとホワイトゴールドが溶けすぎてしまい、部分的に合金化してストライプ模様に乱れがでてしまう。
柔らかいプラチナと硬さのあるホワイトゴールドを組み合わせるという事情もあり、後に控えた圧延加工(金属をローラーで押しつぶして伸ばす作業)を考えると重ねる板の厚みも計算する必要がありました。
シンプルなストライプ模様だからこそ誤魔化しのきかない緻密な作業が求められたと思います。
ホワイトゴールドとプラチナという違う金属の組み合わせが、加工をさらに難しくしているのですね。特にプラチナは融点が高く、現在の加工法の基礎が確立されたのは18世紀後半と言われています。
上久保
この加工に際して、治具(加工の際パーツを挟んで固定するもの)を工場に特注しました。通常は鉄でできているものですが、1,000度以上の高温に耐えられるものが必要だった。
素材はステンレス製です。必要なものを揃えて、後は長年の経験と感覚だけを頼りにやり遂げました。顔に伝わる炎の熱や、微かな音などを頼りに、延々と作業を繰り返したという感じです。
お話をうかがっていると、なんだか気迫のこもった刀工の現場を目の当たりにしている気分になってきました。
上久保
木目金は日本の伝統技法なんですよ。かつては刀の鍔(つば)や簪(かんざし)の装飾に使われていました。刀身そのものではないけれど、多少の繋がりはありますね。
当時の木目金は銅や銀が使われたようですけど、それを僕はプラチナとホワイトゴールドに素材を置き換えた、という試みです。
これまで経過をうかがっていると、全てのパーツが揃う頃には出品までに残り3週間を切っているという計算になりますが、合ってます?
上久保
そうですね。残りの3週間で組み立てをしました。毎晩徹夜です。
徹夜ですか!
上久保
はい。寝ずに頑張ったおかげでまぁ、最後にはなんとかなりました。(笑)
組み立て作業でも色々ありそうですね。やはりこの段階でも試行錯誤の繰り返し?
上久保
そうですね。作品の重さはトータルで300g位あるのですが、装着時の負担をできるだけ除きたくて。重さの比重を分散させて、首だけに負荷がかからないよう肩に乗る構造にしました。
見た目だけだと固定化したデザインなので装着時に開きにくく思われるかもしれませんが、実は裏の見えない所に蝶番を8ヶ所くらい付けて広がりやすく、全体をしなやかな仕様にしています。
取り外しに使う後ろのクラスプ(留め具)も違和感なくデザインに馴染むよう考案しました。バネを使ったプッシュボタン式ですので、付け外しはかなり楽でスムーズだと思います。
こういった金具の細部に至るまでも、すべて手作りということで。
上久保
はい。こういった仕様のアイデアや工夫については、日々の仕事で得たものが大きいですね。
普段の日常生活でも何気なく手にしたものを、観察したりどういう作りをしているのか考えることはよくあります。
今後についてお聞かせください。目標にしている人はいますか?