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今後についてお聞かせください。目標にしている人はいますか?
上久保
目標ですか、(しばし沈黙)うーん。(再び沈黙)うーん……。
たくさんの人が浮かんで、ひとりに絞れません……(きちんとした回答ができなくて)ごめんなさい。過去を振り返っても、誰かひとりに限定して傾倒するようなことはなかったと思います。
多くの作品を鑑賞しながら日々学ばせてもらっている、という感じです。そしてもっと違うなにかをしようと思う。どちらかというとオリジナリティーを求める方なんだと思います。
夢の舞台への挑戦、受賞を支えてくれたかけがえのない存在とは?
上久保
社長をはじめ、いのうえのスタッフにはとても支えられました。
日々お客様から寄せられるご要望にいかに応えるか、一緒に悩み考えながら着実に乗り越えてきた、という感じです。
そこで得られた経験はとても助けになりました。
社長の会社をあげて常に挑戦し続ける姿勢は職人たちの励みになりますし、モチベーションが上がります。
今後もお客様のために技術の面でより多くの提案やサポートができるよう、職人として地道に、着実にがんばります。
同じ工房で作業した髙橋さんの存在も大きかったのでは?
上久保
彼女にはデザインの初期段階から意見をもらいました。ひとりで作業するとどうしても自分の感性だけで行き詰まる気がして、それを避けたかった。お互い様ですが、意見を求めると容赦なく返ってきます。(笑)
それからよく試着してもらいました。今さらですが、何度も首を貸してくれてどうもありがとうと言いたいです。
これから新たに挑戦したいことはありますか?
上久保
そうですね……色々あります。象嵌(ぞうがん)とかやってみたいです。
できることなら次の大会にチャレンジして連覇したい野心というか、希望もあります。もしチャンスがあるなら、次はデザインを一新して、全く違う技法で挑みたい。
苦労を重ねた木目金に未練はない?
上久保
もちろん加工技術としての研究はしばらく続けるつもりです。ただ、木目金ばかりに固執するつもりもないので次を迎える頃にはまた、新しいものを取り入れたくなると思います。
「わからないことは上久保くんに聞きなさい。」学生当時から、教授からの信頼も厚かった。
自ずと彼の周囲には後輩たちが集まり、学びの場となる。常に金属工芸に向き合う真摯な姿勢、技術へのこだわり、飽くなき探究心はきっと当時の若者達にも大きな刺激となったと思われます。
確かな技術を得ながら、新しいものを追い求め、着実に前へ、前へと進む。 不眠不休の過酷な作業を終えた後でも、次の挑戦に向けた熱い意欲に圧倒されました。それは彼が生来持つストイックさなのかもしれません。
最高の栄冠を手にしてもなお、彼の挑戦は続きます。
「かげろう」2014年作
銀・銅・真鍮・クロムメッキ、緑青仕上げ
作家データー :上久保泰志
1990年福岡生まれ、2013年九州産業大学芸術学部を卒業。
2019年、一級貴金属装身具製作技能士取得。