受賞できて本当によかった。宝石・時計いのうえ所属の髙橋里奈さんは爽やかな笑顔で「JJAジュエリーデザインアワード2021」台東区長賞受賞の喜びを語ってくれました。
1828年創業、日本屈指の宝飾店、宝石・時計いのうえにとって初の試み。国内最高峰と言われるデザインコンテストにおいて、髙橋さんは台東区長賞、上久保泰志さんは内閣総理大臣賞という快挙を成し遂げました。
この度は台東区長賞、誠におめでとうございます。まずは率直な感想をお聞かせください。
髙橋
ありがとうございます。結果のお知らせを聞いたときはとても驚きました。喜んだのもつかの間、同じ工房で作業していた上久保さんのグランプリ獲得を知ってちょっと落ち込みました。(笑)
仲間なので祝福したい気持ちは十分あるんですけど、正直、ちょっと悔しくて。
チョーカー、ブレスレット、ピアス・イヤーカフの4作品。(18Kゴールド、スフェーン、ダイヤモンド)
ピアスとイヤーカフの下部はそれぞれチャームとして独立しており、手軽に外してチョーカーにも付け替え可能なトランスフォームジュエリー。
使用者がさまざまなシーンに応じてアレンジが加えられる利便性は、歴史あるロイヤルジュエリーを彷彿とさせる。
良きライバルですもんね。おふたりの作業状況については後ほど詳しくうかがいます。
受賞作品である「軌跡」のインスピレーションについてお聞かせください。イタリア・ローマへの旅がきっかけとうかがっておりますが。
髙橋
石畳の道はヨーロッパでは馴染みのある風景だと思いますが、私にはとても新鮮に映りました。
滞在中、天候がコロコロ変わったのですが、それによって石畳の色合いが微妙に変化することに気づいたんです。雨に濡れてツヤツヤしていたり、晴れて石の表面が乾くと、ざらざらして見えました。
石が敷かれたばかりの古代ローマの平坦な道のりを想像しながら、経年による窪みや歪みの変化を見つけるのは楽しかったですね。
長い歴史が刻まれた石畳の道を、ジュエリーで表現してみたいと思いました。
複数のアイテムからなる大作ですが、イメージからどのようにデザインを具体化したのでしょうか?
髙橋
『石畳を身にまとう』と考えた時、真っ先に浮かんだのがチョーカーでした。
アイテム1点だけだとインパクトに欠ける気がしたので、トータルバランスを見ながらピアスやイヤーカフ、ブレスレットを追加した、という感じです。
デコルテの開いたドレスなどにも合わせる場合を想定して、チョーカーには下に付け足すチャームを用意しています。
縦に流れるデザインが加わることで首元がより華やかになりますし、取外し可能な仕様ですから、使わないときはイヤーカフとピアス、それぞれに付け足すことができます。
ボリュームアップは思いのまま、使う人がそれぞれのシーンに応じて好きなようにアレンジできたら楽しいですよね。
なるほど。使う側の利便性や実用性についてもよく考えられたデザインです。工程としてはいかがですか?
髙橋
まずは頭の中のイメージをラフ画に書き起こして、発泡スチロールで試作後、いきなり本番突入です。シルバーで試作品を作れたら良かったんですけど、時間もなくて。
宝飾業界ですと、デザインではCADなどを使うのでは?
髙橋
CADは時間もかかるし使わないです。ラフ画でiPadを使っただけですね。マスターピースを作ってゴム型取って……基本、手作業です。
自分の手でゼロから作る方が得意ですし、結果的に早いんです。学生時代に金属工芸を学んでいた経験が活かされたのかもしれません。
キャストで上がったピースに1つづつ表面加工を付けながら仕上げ、全体的なバランスを考えながら地道に調整を重ねました。
宝飾業界ではデザイナーとクラフトマンが分業となるケースが多いと聞きますが、髙橋さんはどちらも兼ねていらっしゃるんですね。
学校では宝飾に特化した勉強をなさっていたのですか?
髙橋
美大では宝飾というより、もっと広義な美術全体を学んだという感じです。実際に就職するまで宝飾とはほぼ無縁でした。
今回のデザインや制作の根底にあるものは、学生時代に銅や真鍮で作品を作っていた頃に培われたものだと思っています。
作品のテクスチャーについてお聞かせください。天候や経年によって日々変化する石畳のイメージを、ゴールドの各パーツで見事に表現できていますね。
それぞれどのような加工をしているのでしょうか?
髙橋
通常の鏡面仕上げ以外に、石目とマット加工を施した異なる3つテクスチャーを用意しました。
雨に濡れた艶のある光沢、好天時の乾いたザラつきのある表面や経年による風化・変色した様を表しています。
ひたすら