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見るほどに本物の石畳のような表面ですね。加工用に特殊な
髙橋
既製品ではこのようなテクスチャーは出せないので、
石の表面ですから、初めは近所の公園で石を拾ってきては鉄の棒を熱して打ち付ける、という作業の繰り返しです。
巡り巡って最終的には自宅前で拾ったコンクリートの破片に行き着きました。
まさに人の手でしか成し得ないテクスチャーです。側面には光沢が出るよう磨きがかけられていますから、加工がより引き立ち、石畳の立体感をさらに演出しています。
微かな凹凸が光を含み、水気を帯びているようにも感じられますね。角度を変えれば乾いているようにも見える。
同じパーツの表面で、幾通りにも様変わりするのが面白い。天候や季節、歴史を経て表情を変える石そのものですね。
髙橋
ありがとうございます。メインパーツが表情を変える工夫は他にもあります。
四角のパーツを支える台の4つの脚の長さを、ひとつひとつ変えています。あえて傾きを設けることで、実際に光を浴びた時に乱反射を起こすんです。
金そのものが持つ反射率の高さを効果的に演出した。
髙橋
はい。各パーツ全てに微細な傾きがあり、隣り合うパーツは面を向ける方向が異なります。それにより一層金の光沢が増して見えるんです。
4種類の大きさに分かれた同じ形のパーツが高低差を繰り返しながらリズミカルに並んでいますが、黄金の石畳をたどるにつれ、引き込まれるような魅力を感じるのは、輝きそのものに仕掛けがあるのですね。
髙橋
実際に作品を見て楽しんでくれるとうれしいです。
ゴールドのアクセントになっている宝石は、なぜダイヤモンドとスフェーンを選ばれたのでしょうか?
髙橋
垂れ下がるデザインのアクセントとして、宝石のきらめきを足したくなりました。当初はブラックオパールも検討しましたが、多色性があって透明度の高いスフェーンを選びました。
スフェーンの持つ金属光沢は色石ながらゴールドのきらめきにも引けを取らないですし、石言葉は『永久不変』。今回の石畳のテーマにぴったりだと思いました。
スフェーンというと、硬度(モース硬度:あるものでひっかいたときの傷のつきにくさ)はやや低めですが赤や黄色、緑やオレンジといったさまざまな色が混在したミステリアスな色石ですね。
今回の作品に選ばれた淡い緑色系のスフェーンは、主役のゴールドの存在感を遮ることなく全体的に柔らかなアクセントをもたらしたと思います。
チョーカーに組み込まれたダイヤモンドの石座は、よく見ると特殊な形状をしていますね。
髙橋
はい。垂れ下がる部分に加えるスフェーンとは違い、ダイヤモンドはメインパーツと接合するため同じデザインにする必要がありました。
石座から爪にかけ、角張ったデザインにしています。
メインパーツのゴールドに、ダイヤモンドのみずみずしい透明感と輝きがアンバランスに組み込まれています。
髙橋
ダイヤモンドを植物の葉脈のように配置することで、石畳に刻まれた人類の長い歴史を表現しました。
それが作品タイトル『軌跡』に繋がるのですね。
このほか細部のこだわりや見どころについて教えて下さい。
髙橋
全アイテムで200g以上にもなる金を贅沢に使い、石畳をテーマに様々な表現を試みたところはぜひご覧いただきたいです。
留め具となるカニカン(つまみを引いて開閉する留具。蟹のハサミのような形をしている。)も全体的なバランスに合わせ、角張ったデザインにしています。
チョーカーは首にぴったりと沿わないと野暮ったくなるので、サイズ調整可能なアジャスター付きです。裏面の接合に使う部品も四角形にしました。
装着によって隠れる所にまで気を配った理由は?
髙橋
平置きしても
今回はジュエリーを広げたときに、小さな石畳の世界ができるようにしたかった。
確かに。表を向けて平置きすると、真っ直ぐな石畳の道ができます。ひとつひとつのパーツの脚に適度な長さがあるため、ジュエリー全体に厚みが出る。
そのおかげで重厚感ある石畳が表されているのですが、この直線的なデザインを人の首に無理なく沿わせる、となると構造的に課題があったのではないですか。
髙橋
そうですね。パーツの隙間を微妙に加減する必要がありました。隙間が広すぎると置いたときに石畳に見えないし、かと言って詰めすぎると装着時に首に沿うだけのカーブが得られない。
制作中、何度も持ち上げて確認しました。
装着時に不快にならない適度なしなやかさは、試行錯誤のはてに得られたものだったんですね。
華やかなパーティーの前後、鏡台の上などにこんなゴージャスなゴールドジュエリーが輝いていたらと思うと、想像するだけでうっとりします。
髙橋
ありがとうございます。私も好きなものはいつまでも眺めていたいです。
制作アイデアが形になるまで、どのくらいの期間がかかりましたか?